公園闘争

わたしは子供の頃に住んでいた街に戻ってきたいわゆる出戻りである。閑静な住宅街なので20年経とうが街並みはほとんど変わらないが、一つ大きく変わってしまった場所がある。

 

うちから徒歩3分ほど歩いた所にある、少し大きめの公園…フットサルコート2枚分くらいの大きさだろうか。幼少の頃わたしはその公園で、ブランコから飛んだり、かご型のブランコが動いているのに飛び降りたり、ジャングルジムから飛び降りたり、滑り台を滑らずてっぺんから飛び降りたりしていた。フライハイである。

 

その公園はガキンチョの聖域みたいなもんで、近所の子供が毎日集まり各々ボールで遊んだり、鬼ごっこをしたり、とりあえず飛び降りたりしていたのである。まぁおそらくなんでもかんでも飛び降りていたのはわたしだけのような気もするが。

 

約10年前にこの土地に戻ってきた頃、何気に懐かしくなりその公園を訪れて愕然とした覚えがある。久々に訪れた公園からは、ジャングルジムが姿を消し、かご型のブランコは撤去され、普通のブランコはあるもののあまり高く、エグい角度までブランコが上がらないように細工されていて、極めつけが「ボール遊び禁止」の看板。

 

つまり、わたしが幼少の頃にこの公園でしていたような事はほぼできなくなっていた。かわりに目についたのが花壇。結構な面積に秋口だったからかベゴニアが植えてあった。うーむ。

 

とぼとぼと歩く帰り道、偶然あった近所のおじさんにその節を伝え、随分公園も変わったもんですねぇと言うと、やっぱりどこぞの親がジャングルジムは落ちたら危ないだとか、かご型のブランコは曲芸乗りをすると危ないだとか言い出して撤去されたようでして。

 

子供なんてそうやって落下して怪我の一つや二つを体験し大人になっていくもんだと思いますが、時代はそうさせていないようで。少子化に伴い「子は宝」から「子は王様」傾向にありますよね。

 

少し話題は変わりますが、お客さんの、幼稚園児を子に持つママさんにこんな話を聞かせていただいた事がありまして。そのママさん、子供を幼稚園に迎えに行くと、先生にいきなり謝れたという。

何事かと思っていると、お子さんが遊んでいる時にたんこぶを作ってしまったみたい。子供なんだからそんな事は日常茶飯事のような気もしますが、その時の状況、一緒に遊んでいた相手、その後の対応を細かくレポートされ、今後はこういうことのないようにと改善策まで出され、最後にまた先生に深々と頭を下げられて、お子さんが怪我をしてごめんなさいと謝られたそうでして。

 

幼稚園の先生がこういった事細かな対応をするということは、それを望んでいる人がいるからなんでしょうがね、そんなにはれものを触るように育てて、子を王様にしたいなら幼稚園に入園させないでおうちで鎖でもつけて置いておけばいいんじゃないですかね、とか言ったら大問題になるんでしょうけど。

 

まぁ、そういったマイノリティ組が大声で騒いだからか、うちの近所の公園はそのような変貌を遂げ、近所にあんまり子供がいないのもあって、休日だったのに散々としていた公園…結構どこの公園も禁止事項に溢れているんでしょうけど、これも時代の流れなんでしょうかね、寂しい限りです。

 

しかしそんな、寂れてしまった公園にもまだ人が集まる日があるんですよ。それは、回覧板でお知らせがまわってくる定期的な「町内清掃」の日。朝から町内の人を総動員して掃除をするイベント、都会はどうかわかりませんが田舎では結構定番ですよね。

 

その町内清掃が毎年3回はありまして、わたしも参加していたんです。町内清掃のメインは一応公園の草取りなんですが、わたしが参加した最初の頃は、若いという理由から近所のおじさんと側溝の掃除をしていまして、草取りに参加したらある事に気づかないでいたんです。なるほど、と思ったので今日はそんなお話。

 

いつぞやの事。その日行われた町内清掃は、前回の草取りからそんなに時間が経っていないからか側溝の掃除が無く、町内の人ほぼ全員が公園に集まり草取りを開始しました。おはようございます~なんて言いながら続々と集まってくる人達。

ちなみにこれのイベントに参加しないと一世帯あたり3000円のペナルティが課せられるので、お年寄りで体が悪い人は事前連絡でお断りできましけどそれ以外はほぼ全世帯参加でした。ってか3000円って結構な額だよな…参加者は大体高齢者、たまにおじさんおばさんとそのお子さん、おそらくわたしが大人の中では一番若いであろうといった面子でした。

 

して草取り。もうこれは一般的に行われる草取りと変わりません。雑草を引っこ抜き、根っこの土を落として袋詰めする。根深い草には鎌を当て、ブチッと土から引き剥がす。その作業を延々と続けるのです。まぁ草取りなんだから当たり前ですよね。

 

袋に雑草がたんまり溜まったら、指定の場所に袋を持っていく。わたしの目の前にあった袋が結構一杯になったので、指定の場所に袋を置きに行こうとしまして。その時にふと気づいたんです。袋に、

 

「4班」

 

と、書かれていることを。あ、ちなみにわたしは町内会では4班なんですがね。へー袋に班が書かれているんだーと思いつつ、指定の場所にその袋を持っていく。そこでまたちと違和感が…

 

ゴミ捨て場の袋のように、無動作ではなくある程度2段できっちりと積まれている雑草入りの袋…そして、どの袋にも班が書かれていて、それが見えるように積み重なっていまして。

 

公園内に戻り、草取り作業を再開しながら考える。班の書かれた袋…その袋がちゃんと重ねらね、誰からも班が確認できる…つまりこれって、

 

班対抗のバトルなのか!!

 

その瞬間、もやもやと頭の中にしていたものが、ピタッと整理され、疑問が確信に変わった。遊具が危険だと撤去され、子供が遊ばない公園の意義を…ああ、そうなのか!少子高齢化の縮図とも言える我が町内会でこの公園が無動作にされているのは、つまり草取りバトルを行うためのコロシアムだったからなのか!

 

それに気づき、周りを見渡す。おのおの近況の報告をしあいながら和気藹々と草取りをしている…ようにも見えるが、よくよく見たら、

 

目がマジじゃん

 

全然目が笑ってない。そりゃ早朝だからかもしれんがさっぱり目が笑っていない…ああ、こりゃマジだ、班対抗でふつふつを対抗心を燃やし、うちの班のがすげえと皆戦っているのだ…こうなってくるとまずい、非常にあたしの立場が危うい。なんせこのコロシアムでおそらくあたしが一番若い、なのに4班が至らない結果に終わってしまった日には、

 

 

およちゃんは若いけど役に立たない

 

と、近所の人にレッテルが貼られてしまうこと必須。いやまぁ実際人よりわたしは役にたたないのはそうだと思うが、この先何年住むかわからないのにそういった風評被害はのちのち面倒事になりそうなのでお断りだ。わたしはこの与えられたミッションをきっちりこなす事にした。

 

そんな訳で草を刈る、ひたすら刈り取り袋詰め。しかし、残念ながら公園のサイズにも限界があり、また町内ほぼ全世帯参加ということもありあっという間に雑草が根絶やしにされていく…うう、これはちょっとまずい展開だ。なんせ4班はわたし以外ほぼ全員70代以上の超高齢者チーム。おじさんおばさんがそれなりにいる他の班に太刀打ちするのは普通に草取りをしていたら難しい。

 

何か、何か逆転する方法は…その時またパッとひらめくあたし。そうだ…いやしかし…だが、きっと越してきて1年程度の顔を知られていないわたしだからできるだろう、と禁断の技を繰り出すことにする。その技は、

 

他の班が抜いた草を4班の袋に詰めるスマッシュ!!

 

他の、長く住んで町内に顔が効いた者には不可能のこの大技を一か八か使ってみた。わたしはこの草取りまでずっと側溝係だったし顔を知っているものも少ないだろうとスマッシュを繰り出す。思惑通りささっと草の束に行って袋詰めしていてもなんも言われない。違和感なし、うむ、隠密には適しているなわたし。

 

そんなこんなで、スマッシュが決まり4班の袋は他よりも多く並ぶことになった。よし、苦しい戦いだったがこれなら他の班に負けていることは無いだろうと、意気揚々と帰宅。適当に朝ごはんを食し二度寝を決め込む事に。うん、まぁなんていうか、田舎の清掃イベントってこんなことを考えなきゃ面白く無いんです。ええ、公園が、

 

 

 

班対抗の闘争なわけないだろ

 

と、自分に突っ込みながら寝ました。でもね、どうせ町内清掃するならこういったバトルを取り入れた方がいいですよ各自治体は。ええ。

と、いうわけでこれはこの土地に引っ越してきてから間もない頃だったのですが、今は町内会長が変わったからか袋に番号を振られることも無くなりましたね。ってことはあながち班別の草取り量をこっそりチェックしていたのかも知れませんな…

 

春夏秋の年に3回もあるので大変と言えば大変だけど、4班には若いママさんが引っ越してきたし草取りのために公園に行けば近所のかずくんをはじめとした知り合いやお友達が結構いるようになったのでそんなに苦痛でもないですね。闘争なんて考えることも無くなりました笑

そう考えると、身近な、近所のコミュニティってのはやっぱり大事なものなんだなぁと実感した次第です。でも、そろそろ草取りもめんどくさいので公園にヤギでも導入してくれないかなぁ笑

そんなわけで春の草取りがもうすぐに迫っているおよでした。

 

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