いい女すぎる問題

これまた相当昔の話で、わたしがまだ社会人3年目なんて頃の事。

ある日の友人の結婚式。宴は朝方まで行われた。ぐでんぐでんの状態でタクシーに乗る。

 

仙台市内の中心部、とある所に通常のタクシーより二割くらい安いタクシーが集まる場所がある。何かの秘密なのか、タクシー会社は違えど安いタクシーはそこに集まるのだ。なのでそれを知っている人は適当な所でタクシーを捕まえず、その場所まで歩く。わたしもそんな中の一人であり、この日も千鳥足ながらもそこまでたどり着き、タクシーに乗車した。

 

今もそうだけどわたしはあんまりタクシーに乗る機会がないのだが、乗ると必ず運転手さんと話をする事にしている。

 

それはわたしが非常に乗り物酔いしやすく、何かで気を紛らわせなければ大惨事となってしまうから。ちなみにフェリーなどの大型船や飛行機等、大きい乗り物は大丈夫である。逆に小さい乗り物はほとんど苦手で、車に乗る場合わたしはみずから運転手を志願する。自分で運転しないと酔っ払ってしまうので、その防衛からなのだが一部からわたしは運転が好きな人と思われている。車の運転はそんな好きじゃないんですけどね。

 

それで、タクシーの運転手さんと会話と言っても、タクシー転がしてなんぼ稼いでるのじゃ!なんてナニワ金融道みたいなシビアなお金の話なんかはしない、気を紛らわすための会話なので内容なんかは基本ない。今日は生憎の天気でしたね、みたいな世間話から始まり、どうしてタクシーの運転手になったんですか~みたいな、別にこっちとしては理由を聞いても明日には忘れそうな内容。そんな感じで話しかける。

 

ちなみにこの質問に対して運転手さんの返答はほぼ同じで、リストラやら何やらで職を失い、年齢的にタクシーか警備員しか選べなかった。と皆口を揃えて言うである。車の運転が好きでなりました!という人にはあったことがないなぁ、中にはいるんだろうけども。

 

確かに大人の自慢話によく出てくるバブル期なんかだとタクシーの運転手は結構手取りのいい商売だったらしいけど、タクシー台数に規制がかかってしまうくらい飽和状態な昨今、やはり稼ぎの面で厳しいものがあるらしく、中にはとても生活ができそうもないくらいの稼ぎなおっちゃんもいたり…

 

で、その日もまぁそんな途方もない話を運転手のおっちゃんとしていると、おっちゃんがある事に気づいた。わたしの持ち物である。結婚式で配られる引き出物は、大抵特徴がありその式場独特の袋に入っていたりする。すかさずおっちゃんが「お兄ちゃん結婚式行ってきたのかぁ」なんてわたしに言う。

 

そうですよ、いやぁ結婚ってどうなんですかねぇ?なんて話を振ると、おっちゃんは結婚をした事がないらしい。あ、そうなんですかぁ、まぁ人それぞれっすよねぇその辺の考えなんて、でもしようかななんて思わなかったんですか?なんて酒が入っているのもあり重箱の隅をつつくような質問をしてみた。

 

するとおっちゃんは言う。

 

いやぁ昔付き合ってた函館の年上の女がいい女でさ~あまりにもいい女過ぎてさ~

 

 

逃げ出したんだよね~

 

!?

 

よく意味が解らない…逃げ出した…?何故?とりあえず詳しく聞いてみた。

 

このタクシーを運転していたおっちゃんは元々風来坊みたいな人で根無し草。たまたま函館で働いていた時にその女の人と出会って二人は恋に落ちる…が、どうも良家のお嬢さんだったらしく、おっちゃんは劣等感からか、もっとこの女性には見合う人がいるだろう、なんて南に逃亡…職を転々として仙台でタクシーの運転手として落ち着いたらしい。

 

で、逃げ出したもののおっちゃんは後悔っていうか未練があるらしく、今まで未婚でいる、みたい。今でこそおっちゃんだけどその顔にはイケメンの面影があった(気がした)り…

 

と、言うか…

わたしはさらにおっちゃんに聞いてみる。逃げ出したって事はその女の人だっておっちゃんとの事、きっと釈然としなかったと思うんだけども。

 

そうしたらおっちゃんはいい女だったから大丈夫さ、もうどこにいるかも解らんしね。なんて言った。うーむ。恋愛は相手を気遣うのはもちろん大事だと思うけど、気遣いしすぎて逃亡した話は初めて聞いたなぁ。それでいてそんな数十年前の恋愛を引きずって未だに単身とは…純愛過ぎる気がする。

 

とりあえずおっちゃんさ、会える会えないは別にして、ちゃんと謝った方がいいんじゃないかなぁ?誰だって失踪したらびびるし悲しむよ。良家のお嬢さんだったらまだ地元にいてもおかしくないんだしさ。なんておっちゃんに言ったら苦笑いしてた。そうだなぁなんて。しっかしこんな話聞いてどうすんのさ?なんて聞かれたから、

 

「うーん、そのうち日記に書くかな?」

 

なんて言ったらおっちゃんが笑い話だから楽しく書いてくれよ~なんて言った。そんなわけで日記として書いています。函館で年下の男に逃げられたことのあるご婦人がいらっしゃいましたら尋ね人は仙台のタクシー会社にるかもしれませぬ。

 

とは言っても、もうこの出来事は15年は前の話であり当然タクシーのおっちゃんの消息も名前も顔もお勤めのタクシー会社も覚えていないし、こんなやり取りをしたこともわたしは最近まですっかり忘れていたのだが、ふとラーメン屋でラーメンを食べているときにかかった曲でこの話がフラッシュバックしたのである。

 

その曲は、君の運命の人は僕じゃない、辛いけど否めない~と歌っていて、なんだそりゃ、運命の人なんて結果論だろって思ったんです。それで、あれ、なんかそういう事言ってた人前にもいたよなぁと思い考えたらタクシーのおっちゃんを思い出したわけです。相手に気遣って逃げたおっちゃんみたいな歌があるんだなぁと。

 

その後、おうちに帰ってからその色々思い出させてくれた曲を探してみたらヒット曲だったのであっさりと見つけることができました。歌詞をみると…多分このタクシーのおっちゃんと同じで相手に引け目を感じて別れを切り出したみたいな話なのだろう。もしかしたら、顔は好みだけど性格は合わないからってことをネチネチ説明しているだけかもしれないが。

 

こういう歌詞の歌がヒットしているのはそういうのを好む人が多い時代なのだろうからともかく、タクシーのおっちゃんにしてもこの歌にしても相手あっての事なのに相手の気持ちにはさっぱり触れていない気がするのだが。とりあえず落ち着いて話し合ってみりゃいいのになぁと思いまして。

 

と、言うわけでいつの時代にもいい女に引け目を感じちゃう男の話ってあるんだなぁと思ったおよでした。てか、よく考えてみると渥美清さん演じる「男はつらいよ」の中でもこういう話ってあった気がしますね。事実なだけにタクシーのおっちゃんの話が一番ドラティックな気がするけど…とりあえずやっぱりタクシーのおっちゃんは失踪したことは謝った方がいいと思うなぁ…

 

なんというか、もっとこう、みんなシンプルに考えればいいのになぁと思ったわたしの頭はシンプルすぎて逆に何考えてるかわからないとよく言われます。はっきり言って何も考えてないです笑

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