天に帰るもわざもの

わざもの(業物)=見かけはどうあれすごく切れ味の良い剣の事を指す。

 

わたしが大学を出て勤めだした頃なのでもはや20年近く前の話。その人と出会ったのは、大学を出てからたけさん(先日の記事に出ている通り昔のわたしの上司)の所にお世話になる事になり、室内園芸装飾士と言う名の営業職に付いて間もない頃である。

 

どこからどうみても普通な感じのマンション、その一室に彼の事務所があった。わたしが会社に入った途端に担当になり、そこにお仕事として出向いた。とりあえずピンポンを押しても返事がない。なのでドアノブをひねりガチャっとドアを開けたら鍵がかかっていなく、目の前に人が仁王立ちしていた。

 

その人は初老…いや、かなり年を召している。缶コーヒー「BOSS」に出演しているトミー・リー・ジョーンズが和風になったような風貌だ。しかしながら、服装はお年寄りのファッションとは到底思えないド派手なネクタイ、ピンクのシャツ、ブラウンのジャケットを着こなして、なによりでかい。かなりでかい。180cmあるわたしと同じ目線…いや、この人の方がやや目線が高い…うわぁなんだこの人って心の中で思い、呆気にとられていた時、彼との最初の会話が始まった。今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

だれだおめぇぇぇ!!

 

今から熊をも殴り殺す様な勢いで罵声をわたしに浴びせる老人。正直、びびった。非常にびびった。普段は驚くことなんてないわたしがびっくりした…そりゃえらいでっかい老人にシャウトされたのは初めての事で、どうしよう、このまま逃げちまっても怒られないかも、なんて最低な考えが頭をよぎったりもした。けどここで逃げたら営業なんかできねぇと精一杯持ちこたえて出た言葉が、

 

「あの…お付き合いいただいている会社の…」

 

我ながら情けない。がんばって出たのがその一言だった。まぁ勤めて間もないってのもあったけど、そんときゃ完全にこの老人の迫力に飲まれていたのだ…

 

しかしながら、そのか細い台詞が老人には伝わったのか、普通のトーンに声量が戻り「あ、そうか。んじゃ入れ」なんて言われてあっさり部屋に入る。老人は奥の部屋に行きソファーにどかっと腰を降ろした。

 

で、オフィス部屋。かなーり物が散乱している…。こんなに書類やら何やらがあふれるオフィスに「お飾り」は必要あるのかなぁなんて心のなかで思いながらの作業。いつ怒鳴られるのかわからないピリピリとした状況の中、すぐ終わる仕事だったのでそそくさとを終え、ありがとうございます~なんて挨拶をして部屋を出た。これがわたしと彼との出会いである。余りにも鋭いパンチを初っぱなから浴びせてきたので、彼の事はわざものと呼ぶ事にする。

 

 

たけさんの会社ではしきたりなのか、新人には一癖あるお客さんに逢わせたりするようだ。つまりこれって一種の試練だったみたいだが、何とか仕事をこなしたのでこれ以降わざものの担当はわたしになった。ちなみに、たけさんの上司、いわゆる会社のオーナーのゴルフ仲間だか、麻雀友達だか、趣味のお付き合いがある人だったらしい。だから小さくて物が散乱していて到底「お飾り」が必要そうもないオフィスなのに仕事をさせていただいてたのだろう。

 

わざものとのお取引は、毎月一回お伺いして「お飾り」の設置をする仕事だ。なのでわたしは毎月わざものの事務所に足を運び入れた。

 

最初はわざものもなんだこいつと思っていたのだろう。わたしが行くといつも奥のソファーに腰掛け、見たこともない葉巻に火をつけてぼーっとしていた。その間にまた怒鳴られるのではないかとビクビクしながらササっと仕事を終え、ありがとうございます~と帰る。そんな作業が半年を過ぎた頃だろうか。

 

いつものようにピンポンを押して部屋に入るとやたら機嫌のよさそうなわざものがいた。あ~今日は機嫌がいいんだな~なんて思いながら仕事を終え、挨拶をすると、

 

 

「ごくろうさん」

 

なんて言ってくれてるじゃないですかわざものが。いっつも奥の部屋で腰掛けて葉巻をふかしながら時折電話口で「あぁぁぁ!馬鹿野郎っ!」とか怒鳴りつけてるわざものが…いつもならありがとうございました~って言ってもあーってしか返事をしなかったわざものが…なんてやさしい言葉を…なんて思った瞬間、わざものがこうわたしに言った。

 

 

「所で、部屋掃除してくれねぇか?」

 

 

えぇ、しました。掃除機をがっつりかけて雑巾を使って隅々まで掃除しました。「もぅいいんでねぇか?」なんて言われても、いやまだまだと返して掃除しました。もちろん営業としての仕事じゃないけど、なんか今までのわざものの無頼な態度とは違う事に対し燃えてしまったのでしょう。

 

それ以降、わざものとは急速に仲良くなる。ってか半分便利屋みたいな感じに成り下がったわたし。この葉書をだしてこいとか、やっぱり掃除して、とか。なんかやってることがヘルパーさんみたいだなぁって思いながら平和ならなんでもいいやと思いわざもののオフィスで1年、また1年とお仕事をさせていただいた。

 

そういや、わざものとは基本彼のオフィスでしか会わなかったが一度だけ街の中で見かけたことがある。その時はタケさんと車に乗りながらだったのだが、なんか通行人にド派手なでかい人がいるなと思ったら案の定わざもので、隣には小柄で真っ白な頭をした可愛らしいおばあちゃん。そして二人は手を繋いでいた。仲がいいなぁって思っているとたけさんが、あれはわざものさんの奥さんだなーなんて言う。車のすぐ隣を歩いていったけど気づかなかったのでこちらからも声をかけなかった。すごい楽しそうな二人の時間に見えたしね。

 

 

その後も、いつものようにわざもののパシリ兼お仕事をしながら過ごしていたある日、唐突にオーナーからわたしの携帯に直接連絡が入った。いつも言いたいことがあればたけさん経由で連絡が来るのでびっくりしながら電話に出ると、

 

 

わざものの奥さん、亡くなったから。次行く時は気を効かせてな。それだけオーナーは言うと電話を切った。

 

オーナーは心配性というか、面倒見がいい人でして。会社組織の末端な立場にいるわたしがこの癖のあるわざものの担当と知っていたので、わざわざ教えてくれたんだろうなぁ。

 

次に訪問した時、明らかにわざものは気落ちていた。静か、耳が遠いからかどうかは解らないがいつもなら声に張りがある、というか非常に大声での会話だったのに今日はすごい静かである。

 

わたしのようなよくわからない立場の人間が心中ご察しいたします、なんてのは言えないよなぁ、と思ったのでいつものように通常業務の他に今日も掃除していきますからね、と言っていくら片付けても次の月にはまた物が散乱している部屋を掃除して帰りました。終わった後、わざものは静かに「どうも、な」なんて言った。

 

その後、さらにわざものとは仲良くなり、わたしが訪れると彼は自分の身の上話をわたしにするようになった。さらに「俺は侍だ」と、行く度にわざものは言うように。わたしが訪問して掃除をしたりしていればただのやさしい爺さんなんだけど、その間に電話がかかってきたりすると「おめぇなにやってんだぁああ!!」とかしょっちゅう電話機に向かって怒鳴り倒していたので、こんな暴言を吐きまくる侍っているんかいな、と思ったけど…まぁ心意気が侍という事なのだろう。

他にも「俺は9999億9999万9999円までは暗算できるから」なんてよく言っていた。んじゃ一兆円はどうなん?なんてすごい馴れ馴れしくわたしが聞いたら、そこはもう俺の世界じゃねぇ、なんて言ってた。その差は今でもわたしには解らない。

 

また、わざものはこんな事もよく言っていた。

「おい兄ちゃん、人間はな、カツライス(おそらくとんかつ定食)が毎日食えるくらいの金を持ってるのが丁度いいんだ。毎日食わなくてもいい。好きな時にカツライスが食えるくらい金を持っていればそれでいい」

…なるほど、人はお金を持ち過ぎても少なすぎてもダメって事なんだろうなと、これを巨額のお金を扱ってそうなわざものの口から聞いた時は素直に感心した。けど、だんだん会う度に言うようになってきたし、数年後とあるラーメン屋さんで美味しんぼを読んでいたら同じとんかつの話が出てきたのには笑った。わざものも美味しんぼ読むんだなぁって笑

 

わざものは経営コンサルタントが仕事らしい。金融業を経て今の立場にいるわたしなら何となくどんな仕事をしているのか詳しく話をしたら見当がついただろうけど、この時はまだまだひよっこ社会人である。そんなひよっこが経営コンサルタントのじいさんなんて聞いても、アカギってマンガのいわおさん(なんかすごい悪い人、でも憎めない感じ)を浮かべてしまい、うさんくさいなぁと思っていた。

 

相変わらずわざもにはわたしが仕事中に誰からかの電話を受けては罵倒してたし。一応なんかの仕事はしてるんだろうなぁくらいの認識でした。だらだら談笑しつつ掃除やら雑務やらの便利屋もしつつ、わざものとはその後も付き合っていたんです。

 

そんなわざものは、時々「体が痛え!」と言うようになってきた。いや、痛いなら病院に行きましょうよとわたしが言うと、

 

病院に行くくらいなら死んだほうがマシだ!

 

と苦笑いしながらわたしに言うわざもの…お年寄りの憩いの場になりつつある病院をこんなに嫌うお年寄りも珍しい。いやいや痛いなら行きましょうよと言っても「嫌だ!」としか返さないわざもの。子どもかよ…

 

 

 

 

そんなわざものと急に連絡がつかなくなった。先月までは普通にお伺いしていたのに。どうかしたのかなぁ、と思っていたら会社にわざものの息子と名乗る人から連絡が入り、わざものの事務所へ向かった。

 

息子さんは、外人さんっぽいわざものの面影はあんまりないが…名刺を差し出されてみると、うわぁびっくりだぁって職業の人だった。息子が話をしだす。「父は体を壊して入院しましたので…一旦お飾りを引き上げて下さい。元気になりましたらまた連絡しますので…」

 

解りました、とわたしは言う。息子の表情は心なしか寂しげだった。やっぱり具合悪かったのかぁわざもの…病院に行くなら死んだほうがマシって言ってた人が入院するってことは…

 

で、数ヵ月後。所用があり会社の本部(わたしの勤め先は支部)に行くとオーナーが喪服姿でいた。ご不幸なんですか?と喪服を着ているんだから当たり前の事を聞いてみると…

 

ここまでの流れでお察しの通り、わざものが亡くなったのでオーナーは喪服を着ていたのだった。葬儀会場はおそらく東北一の会館。政治家さんや著名人がお葬式を執り行う会場で、そこからも改めてわざものの器の大きさを知った。ついでにその時オーナーからわざものの身の上話もちらっと聞いたのだが、やはりわざものは奥さんが亡くなってからがくっと気落ちてしまったらしい。

 

わたしも街中で仲良く手を繋いでいるのを見たことがあったくらい仲がいいパートナーが先に亡くなってしまったら…そういう場合、相方も結構早死してしまうって話を聞いたことがあるが、まさにわざものもそうだったんだろうなぁ…

 

本当は線香を上げに行きたかったが、末端のわたしがそんな所に出向いても場違いな気がしたので、心でご冥福をお祈りしていました。オーナーに、よろしくお伝えくださいなんて意味不明な事言ってしまったという…

 

それで、わざものが亡くなってから暫く経ち、こういう基本的にうんうんと聞いているわたしの性格が買われたからかその後も意地悪いおじさんやオカマさんやヒステリックなおばさん…一般的にはめんどくさい客と言われる方々とお仕事で何度もバチバチやりあった…いやわたしがガンガン攻め込まれたんだけど笑、何とかこなせたのは初対面の初挨拶でいきなり怒鳴りつけてきたわざもののおかげだと感謝していたりします。死しても心に残る人物、確かに彼が自分で言う通り侍だったのかもしれませんねぇ。

 

最後までわざものの人と成りはよくわからなかったけど、彼のおかげで(一癖のある人への)営業とは何なのかよく解ったおよでした。で、なんでわざものかってこれまたオーナーに当時聞いたんですけど、うちの地域の経済のフィクサーみたいな人だったんですねわざものって笑。よくそんなオフィスに新人を行かせたよなたけさんの会社笑

 

以上、春の陽気につられて思い出した昔話でした。最近そういう癖のある人に合わないなぁ…

 

 

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